
熱力学のページ
Thermodynamics
更新:2025/5/30
「現代の熱力学」のページ
共立出版、2022
現代の課題に応える熱力学
今日、熱力学の守備範囲は化学、生物学応用から、エネルギー問題から地球環境問題までかつてない広がりをみせている。その一方で、大学の熱力学講義は軽視される一方である。教える側の物理学者自身がこのような社会的要請に無頓着であるし、また古典的な熱力学は統計力学へ行くための渡し舟くらいの重きしかおいていないことが原因であろう。本書はこのような現代的課題に物理学の立場から答えるための教科書である。「熱力学は現場の問題を解決するためにある」との信念のもと、数学的構造の美しさを追求するのではなく、いかに使うかという、使う立場からの記述を貫いている。従って初心者のみならず、現場の研究者にも役立つ。
豊富で新鮮な実例
そのためには実例が書かせない。形式的な問題より、現場の新鮮な問題を豊富に取り上げ,熱力学が生き生きした主題のものであることを浮かび上がらせる。取り上げた実例は、工学的応用から、地球惑星学、生物学、エネルギー、環境問題など広い範囲にわたる。これにより熱力学は,古くからある決まりきった問題を解くためにではなく,もっとダイナミックに現代に生きて役に立っているものであることを理解できる.導く問題より数値的評価を重点におき、実際のものの大きさに関する感覚を養う。
不可逆過程も正面から取り入れる
現実の問題を重視する立場から、通常の教科書では避けられる不可逆過程についても積極的に取り入れている。不可逆性を数値的に評価することで熱効率向上の目標を定量化できることを示す。不可逆過程を扱うことはしかし上級に属する不可逆過程の熱力学を学ぶということを意味していない。あくまで従来の熱力学の枠内、初等的なレベルでの取り扱いでできることである。この取り扱いにより可逆過程の理解も深まる。<BR>
実例による概念の把握
「英語学でなく英会話を」と実用を重んじることをモットーとしているが、さりとて単なる解き方のテクニックを教える実務書ではない。重要な概念の物理的意味を深く説明。それを数学的にではなく豊富な実例で説明。特に、準静的過程、可逆・不可逆過程など、当の物理学者自身が本によって違った書き方をしているところでは、それらを注意深く比較し、交通整理を行っている。従来の教科書で混乱するのは、実際の応用例が乏しく、具体的実例への掘り下げが不足していることが原因と指摘。<BR>
熱力学の広範囲な有用性
ほかの教科書では統計力学が出たところで初めて扱う現象も、古典熱力学の枠内でいけるところまで追求。<BR>
研究の最先端
「古典熱力学」という名前からの、古くさく廃れたというイメージを払拭するため、熱力学が今も研究の先端にあることを、実例を入れながら強調。読者、研究者の知的好奇心を刺激。<BR>
訂正のページ
教科書という性格を考えると、たとえそれが自明な誤りで読者が容易に正しい記述がわかる場合でも許されるものではない。数値計算においては読者に余計な労力を強いることになるし、記述に誤りがあれば、それを信じた学生・読者に後々多大な迷惑をかけ、ひいては社会に対しても責任を負わなければならない。著者としてはひたすら陳謝するしかないが、この訂正表が多少なりとも罪滅ぼしになってくれればと願う。
p. 140, クラウジウス積分の表式に現れる温度について、「作業流体の温度」と述べているが「熱浴の温度」である。これは著者のひどい誤認であった。恥ずかしいことであり申し訳ない。説明には少し紙面が必要なので,次の資料を参照して頂ければ幸いである。
p .123、熱伝導、および拡散の不可逆性を示した図4.8の例は問題の初期設定が曖昧であった。
p. 126、化学反応における可逆・不可逆性について誤ったことを書いていた。図4.10の説明で、反応の障壁が無くなると可逆変化になると書いている。これは誤りで、どんな化学反応にも反応障壁がある。反応が可逆か不可逆かは障壁の高さではなく、濃度との兼ね合いで決まる。ほとんどの場合化学反応は不可逆である。しかし反応物、反応生成物の濃度と温度がある関係にあるときには化学平衡となる。こんな高校生が学ぶことで間違えるとは赤面の至りであり、教師失格である。二つ併せて次に書いた。
なお過程が可逆か不可逆かを判定するのに、場合場合であれこれ理由を考えるようではたまらない。系統的なアプローチが必要である。それにはかなり準備が必要なので、ここで簡単に述べることはできない。それに関しては拙著「熱力学における可逆・不可逆の理論」に於て述べる予定である。
旧訂正、初版第3刷で訂正済み
旧訂正、初版第2刷で訂正済み